そう、Barで語り合う老人の話をしたついでにもうひとつ。
秋季にある唯一の祝日が11月1日の諸聖人の日(Ognissanti)であるが、わたしにとってはその日が夏と冬を二分する、いわゆる気持ちの陽と陰を入れ替えるタイミングとなるわけである。その僅か前に必ず欧州の夏時間から冬時間にチェンジする日があることを考えるとあながちその感覚は間違ったものでないのかもしれない。とはいえ何もその日がやってきたからといって深々とこうべ(頭)を垂れて次の太陽を待ち詫びる、というわけではなく、ひとつの区切りとしておいてあるものなのである。
その諸聖人の日は、万聖節ともよばれていて、カトリックにおける守護聖人や殉教者らを偲ぶ日であり、カトリックに限らずキリスト教の多数の教派にとってこの日は殉教者や亡くなった信者のために設けられた大切な祝日となる。
その翌日2日が“死者の日”(祝日とはならないが)となるために、そのあたりの気候と同様にややモノトーンのイメージに受け止められる。先述したようにまさに中秋から晩秋、そして冬へと渡る足音が聞こえるのである。
ご存じの方も多いとは思うが、イタリアの町の中にはその区画ごと、と言って差し支えないくらいの教会がある。ミラノのカトリックの歴史といえばかなり古いわけで、そのような教会には4世紀くらいにできたもの(聖アンブロージョ教会、聖ロレンツォ教会など)から、郊外までくると最新の技術によって建立されたものまでが点在している。歩けば、そして振り向けばそこに教会があるのである。
我々のような異教徒にとって、イタリアの祝日に教会の中に入り込むことは容易ではない。カトリックの総本山と言えるイタリアであっても、このところ改宗者や棄教者の増加が著しいと聞こえてはくるが、そうは言ったところでやはりこの国、教会の前に行けば人がぞろぞろと出入りしている。日曜日、そして祝日はなおさらであり、これこそがイタリアの何よりも大きなコミュニティの場となっているのである。
教会に入れなくても教会の近辺であれば異教者とはいえ居場所はある。そう、教会の周りには少なからず広場があり、ベンチが置かれているところを探すのは難しいことではない。季節の変わり目とはいえ、陽光があればベンチで温まることはできる。そして、話し相手を探すことも意外と簡単なのである。
自宅近くに古びた教会がある。「これなど1750年にできたものだから古いつくりではない」と話してくれる老人は、この区画の主、というような顔をしてベンチに腰を下ろしているが、そのようなお年寄りなど数えきれないほどいる。話し好きだからこちらが黙って聞いているとあれよこれよと古今の話題が湧いてくる。
穏やかな秋の午後、知っている顔、知らぬ顔、そんなことには関係なく交わって静かな時間だけが過ぎていく。
堂満尚樹(音楽ライター)
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